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『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 SFじゃなくて哲学の発表

 

色々と文句をつけていた『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読み終わりました。

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感想書いていきます。

 

1. 翻訳について

さんざん文句をつけた通り、翻訳がイマイチ気に食わない。とにかく読みにくい。

読み進めていくうちに、たぶんこの「読みにくさ」こそがディックの文体の特徴なんじゃないかとは思い至ったけれど、それにしてもという感じ。なんとなく、直訳の気配を感じる。

とはいえ、この感覚は翻訳のせいじゃなくて原文の文体から来るのかもしれない。英語で読んでもディックの文章は読みにくいのかもしれない。翻訳者は有名な方らしいし、その可能性も十分ある。

いつか原文で読んでみる必要がある。読んでから、翻訳者に謝罪するべきかどうか考えます。

 

2. "SF"について

この小説はSF界の傑作と言われるけれど、個人的には「サイエンス」を全く感じませんでした。「アンドロイド」とか「ホバー・カー」とか「情調(ムード)オルガン」とか、それっぽい舞台道具は数多く登場するけれど、それらはすべてSF"風"を演出しているに過ぎない。

個人的に、SFは2種類に大きく分かれるように考えています。

1つは、きちんと科学的考察に基づいているもの。「火星の人」「星を継ぐもの」あたりはそうですね。

もう1つは、科学の発展の先で到達しうる状況や構造における問題点について扱うもの。「アルジャーノンに花束を」「火星年代記」「幼年期の終わり」とかはこれ。

この2つに当てはまらないものをSFを呼ぶのは、個人的には抵抗があります。一般にSFと呼ばれているものでも。「虐殺器官」はSFではないと思うし、「夏への扉」もきわどいところ。

もちろん、面白いかどうかとは別問題です。「虐殺器官」も「夏への扉」も好きだし。

そういう意味では、僕は『アンドロイドは~』をSFだとは思いません。科学的な考察も根拠もないのは明らかなので1つ目には該当しない。なので最初っから2つ目に属する作品なんだろうなと思って読んでいたけれど、それにも当てはまりませんでした。詳しくは後述します。

 

3. アンドロイドと人間

序盤を読み、主人公であるバウンティ・ハンターと8人のアンドロイドの戦いという構図を知り、高度に発達したアンドロイドと人間との関係性や相違点について扱った作品なんだろうなと予想しました。

けれど、最後まで読んでみると、これはどうも違うようです。

ディックがこの作品でやりたかったのは、「アンドロイドと人間」ではなく、「アンドロイド的精神と人間的精神」のようです。ディックによれば、人間を人間たらしめているのは「感情移入能力」だそうで、他人に共感できる精神が人間的、そうでないのはアンドロイド的、という線引きがなされています。

中盤以降、主人公がアンドロイドを殺すことに思い悩むようになり、「高度なアンドロイドと人間は何が違うのか」という問いと向き合うことになるのかと思いましたが、そうはなりませんでした。彼は人間的な精神を持つ(あるいはそれに憧れる)アンドロイドは殺すことをためらいますが、そうでないアンドロイドは躊躇なくぶっ殺します。アンドロイド的存在と人間的存在の対比を描きたいようなのでそれはまあいいんですが、なんだかなぁと思うのは、人間的精神を持つアンドロイドがいずれも女性型で、主人公が彼女たちに性的な感情を抱くことです。最終的に、1人の女性アンドロイドと関係を結んで満足したようです。なんだかチープだなあ。

作者がやりたかったのは「人間に必要なのは感情移入だ!」ということだけのようで、どうも自分の哲学を発表しているだけに見えてなりません。

 

4. 総評

なんでこんなに評価が高いのかわからない。いや、確かにラストシーンは結構美しいし、ディックの独特の哲学が評価されているんだろうことはわかる。けれど、僕にはあまり面白いとは思えなかった。物語性も世界観もすべておまけで、自分の意見を発表したかっただけのように感じる。

で、読みにくい。語り口が淡々としすぎていて行間があまりにも足りない。読みにくいこと自体は必ずしも面白くないことには直結しないけれど、この作品の場合はそもそも内容がイマイチなのでしんどい。

これが原作になってる映画の『ブレードランナー』は見たことがないけれど、そっちが売れたから『アンドロイドは~』の評価も上がったのかなぁ。

ディックの他の作品は一応読んでみたいけれど、この作品は2度は読まないと思います。

 

 

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))