友がみな我より偉く見ゆる日

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『旅猫リポート』 有川浩

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有川浩の小説については、いくらでも欠点を挙げることが出来る。

基本的に「気の利く味方の人間」と「気の利かない敵の人間」しか出てこない構図がワンパターンだとか、本質的にはキャラクターが3種類くらいしかいないとか、「同腹」「おっつかっつ」みたいな微妙に人口に膾炙してない(この言葉自体が人口に膾炙してないけど)言葉を思い出したように使うのが語彙をひけらかしてるみたいに見えるとか、「刺さる」「一言もない」などの気に入った言い回しを妙に多用するのが気にかかるとか。

でも、そういう理屈の部分は置いておいて、有川浩作品が好きだ。

 

『旅猫リポート』は、元野良猫のナナと心優しい主人のサトル、1人と1匹の旅の物語である。

瀕死のナナをサトルが助けたことから彼らの同居生活と絆はスタートした。しかし5年後、ある事情からサトルはナナを手放すことに、というところから物語は始まる。

サトルは銀のワゴンにナナを乗せ、貰い手を探すべく小学校・中学校・高校時代の友人をそれぞれ順番にまわる。行く先々でサトルは古い友人との思い出話に花を咲かせつつ、ナナを引き取ってもらおうと相性を探るが、ナナはサトルとの旅を終わらせまいと引き取られないように策を巡らす。サトルも本当はナナと別れたくなんかなくて、友人とナナのお見合いが失敗するたび、どこか嬉しそうにしている。そういうお話だ。

で、サトルもナナも友人ズも、みんないいやつなんだなー、これが。

サトルは明るく気が利く性格で、今に昔に友人たちを救っているし、ナナを始めとする動物たちの機微にもよく気がつく。ナナは非常に聡明な猫で、スカした態度をとりつつも人間にも動物にも優しい。そして、彼らはお互いにお互いのことばかり考えている。

1章から3章までの旅路は、そんな彼らへの愛着を深めるためにあると言っても過言じゃない。

3章終盤でサトルの「事情」が明らかになるんだけど、その頃にはすっかりサトルとナナが好きになってしまってるんだ。

そこからの最後の旅とすべての終わりまで続く1人と1匹の蜜月には、こっちも泣きそうになってしまう。

 

正直に言うと、サトルの過去とか「事情」とか、ありがちなお涙頂戴だなーと思ってる自分がいることも確かだし、ラストの展開も予想通りでやっぱねと思わなかったと言えば嘘になる。猫使うのはずるいよなーと思ったりもする。

でも、そういう一歩引いた自分を抱えながらも、じんとさせられてしまうような力が、この物語にはある。有川浩の作品は全部そうだ。「まーたこんな感じか」って思いながらも結局没入して楽しんでる。

 

理屈は抜きにして、サトルとナナとそれを取り巻く人たちを好きになろう。彼らの思い出を刻むのが、「リポート」であり「旅」であり、「出会い」であり「別れ」だ。

 

 

旅猫リポート (講談社文庫)

旅猫リポート (講談社文庫)