『満願』 米澤穂信
ほんの去年くらいに話題になったものだとばかり思っていたけれど、2014年に刊行されていたんですね。やっぱり文庫化を待っていると、流行り廃りに置いて行かれてしまいます。まあ、ひねくれ者で流行ってる本は読まないタイプなんで、それくらいでちょうどいいんだけど。
さて、「このミス」1位や山本周五郎賞受賞で話題になったということでなんとなく長編だとばかり思っていたんだけれど、6編からなる短編集でした。そこはやや肩透かしを食らったようだけれど、米澤穂信さんは短編のほうが引き込まれるように思うので、これはこれでという感じで購入。
以前読んだ『儚い羊たちの祝宴』が素晴らしかったのでハードルが上がっていましたが、それは十分に超えてきました。
全編を通じて、どろり、ざらり、とした違和感だけを全体に漂わせつつストーリーが語られ、最後にずん、と落として終わる、という手法がとられているように思う。いずれの短編も一人称視点で時系列を追うように語られるんだけど、そのせいか全容を見通すことができず、胸につっかえたような不安感を抱えながら読み進んでいくことになる。
各編のラストでは、「意外な動機」か「意外な解決」のどちらかが語られる。若干のブラックユーモアを伴って明かされる真実は、星新一的ショートショートのような鮮やかさ。それをもう少し長い短編という形にし、ぞわぞわした雰囲気の中に多くの伏線を盛り込んでいるのが素晴らしい。
個人的に特に好みなのは、『万灯』と『満願』。『夜警』も捨てがたい。『万灯』は冒頭で「私は思いもよらなかった存在によって裁かれている」と明かされるが、彼がその状況に至るまでの巧みな展開が秀逸。『満願』と『夜警』は「動機型」で、いずれも予想すらできず、最後にはぞっとさせられた。
全編について言えるのは、「推理小説」ではなく「ミステリー」だということ。推理を楽しむのではなく、得体のしれない違和感に慄き、予想できない真実に驚くのが本筋なように思える。
あえて『儚い羊たちの祝宴』と比較すると、僕は『儚い~』のほうが好きかもしれない。とはいえ、こちらの内容はほぼ覚えていない。「最後の一撃」によるどんでん返しに痺れ、すごく楽しく読んだ印象だけを覚えていて、思い出補正によるものが強いのかもしれない。しかし読み直そうにも、友人に貸したまま返ってきていないので読み直せない(僕もその友人からマンガを借りっぱなしなので、おあいこである)。
感想は以上です。
とにもかくにも、絶対に読んで損はしません。短編集な上スリリングなのであっという間に読めてしまいます。
『氷菓』などの古典部シリーズで米澤穂信を知った人なんかは、少し違った一面が見られるかも。
以上。