感想を書こう書こうと思って放置したままになっていた。
恩田陸の「蜜蜂と遠雷」。
直木賞と本屋大賞をW受賞して話題になった作品で、恩田陸の著作の中でも一番有名なものになったかもしれない。
昔から(ファンを自称できるほどではないけど)恩田陸は好きだった。初めて読んだのは「夜のピクニック」だったかな。今でも大好きなお話で、本屋大賞も取った有名な本だけど、「夜のピクニック」はいわゆる「恩田陸っぽい」作品ではあんまりないような気がする。
「不安な童話」とか「中庭の出来事」とか「六番目の小夜子」とか、ちょっと不安にさせられるようなダークな風味の話で、なんだかよくわからないまま世界観の大風呂敷をどんどんどんどん広げていって、最後はぷつんと糸が切れたように終わる、そんな感じが自分の思う「恩田陸っぽさ」だ。そういう系の中では「球形の季節」が一番好きだった。
もちろん、これ以外系統の話もたくさんある。「ドミノ」とか「雪月花黙示録」とか。でも全体的に、ストーリーをどんどん広げてわくわくさせるのは得意で、ラストが尻切れトンボになりがち、という印象はある。
「蜜蜂と遠雷」は、そういう意味では恩田陸っぽい作品ではない。ダークでもホラーでもミステリーでもないし、全体を通じて明るい雰囲気で、ピアノと向き合う演奏者たちの心情と音楽を描いている。
特に面白おかしいストーリーがあるわけではない。1つのピアノコンクールがまるまる描写されているが、何か事件が起こったり、恋愛が進展したりと言った物語的要素はほとんどない。本当に、演奏する人と演奏を聞く人の心情、そして音楽しか書かれていないのに、没入させられる。
この本について、「文章を読んで音楽が聴こえてくるようだ」というような感想を耳にする。正直に言って、自分はそうは感じなかった。が、コンクールに没入していくうちに、自分の周りがどんどん静かになり、そして自分の耳がその静けさに敏感になっていくような感覚は覚えた。
素直に、すごい、面白い、と思った。
感想はここまで。もっと内容や登場人物に触れてもいいんだけれど、細かい部分はもう忘れてしまった。僕は小説1つ1つの内容を細かく覚えていられるほうじゃない。むしろ、大筋以外のストーリーはどんどん忘れてしまう。覚えていられるのは、その本がどれだけ印象的な本だったかということだけだ。
そういう意味では、「蜜蜂と遠雷」は非常に印象深い本だった。今から本を開いて内容を確認することもできるけど、それはあんまりしたくない。読んで感じた第一印象を大切に取っておきたい。そんな本。
こんな感想じゃ何も伝わらないと思うので、読んだことない人がもしこの記事を読んだら、ぜひ読んでみてほしい。