友がみな我より偉く見ゆる日

読書とか登山の記録とか

虚無への供物

つい昨日読み終わったのがこれ。中井英夫の「虚無への供物」。

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小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」、夢野久作の「ドグラ・マグラ」と並ぶ、日本三大奇書の1つだそうだ。「匣の中の失楽」も入れて四大奇書とすることもあるようだけど、いずれにしてもどれ1つ読んだことがなかった。ようやくその一角を読破できたのはちょっと嬉しい。

「奇書」の中だと読みやすいと言われているらしいけど、かなり読むのに時間がかかった。1000ページくらいある分量もそうだけど、時代がかった豪奢な文体や、推理小説・宗教学・植物学などの各分野の専門知識の嵐、煙に巻くような長台詞を繰り返す登場人物、社会情勢や地理の詳細な描写、とにかくボリュームがすごい。話の内容はさておき、読み終えて結構な達成感と疲労感があった。

話の筋は、氷沼家の周囲で立て続けに起こる密室殺人事件に対して、推理小説オタクの素人探偵たちが推理合戦を繰り返していく、というもの。この推理合戦がクセモノで、探偵志望のオタクたちが無茶苦茶なことばかり言いまくる。現実に起きた事件に対してノックスの十戒を持ち出してみたり、「犯人は必ず密室に出入りしたものとして考えよう」とか言い出してみたり。色々な推理小説を引用して知識で殴ってくるし、オタクうぜえって感じだった。推理小説に詳しければ、散りばめられたオマージュを楽しめたのだろうけど、知識が足りなかった。

奇怪な事件に繰り返されるぶっ飛んだ推理を聞いているうちに、非現実と現実の境界がどんどん曖昧になっていく。その境界を泳いで泳いで、ラストで推理の数々はすべてひっくり返されるんだけれど、結局非現実から抜け出しきれないまま終わったようで、戸惑いが残った。

ここまであまり良くなかったような書き方をしてしまったかもしれないけれど、とても面白かったことだけは確か。華やかな文章に彩られた怪事件にはドキドキさせられるし、張り巡らされた伏線が結末に向かって明らかになっていく様やラストでの意外な真実は、推理小説の傑作と呼ぶにふさわしい。魅力的な探偵役だけが欠けているが、それも作者の意図だろう。

この本は推理小説の一大傑作でありながら、反推理小説とも呼ばれる。作者もあとがきで「反地球での反人間のための物語」などと言っている。読み終えれば、その意味がよくわかる。

単純に面白いという以上に、すごいという感想が先に立つ作品だったと思う。

 

気が向けば、続きを書くかもしれない。

 

 

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

 
新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)